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宮崎地方裁判所 昭和58年(ワ)203号 判決

原告

源林

被告

清水尚武

被告

久保田定雄

主文

一  被告清水は原告に対し金六三五万円とこれに対する昭和五八年四月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告久保田は原告に対し金一五八万七、五〇〇円とこれに対する昭和五八年四月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告久保田に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は原告と被告清水との間においては全部被告清水の負担とし、原告と被告久保田の間においては原告に生じた費用を二分し、その一を原告の負担としその余の費用はこれを四分し、その一を被告久保田の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は第一、二項に限り仮りに執行できる。

事実《省略》

理由

〈前略〉

一被告久保田の抗弁について

被告久保田は前示のとおり抗弁として、被告清水から同人が鈴木ミツキから本件土地の売渡の委任を受けている旨の委任状と同人の印鑑証明書の呈示を受け、これをみて売渡意思を確認したから、被告久保田に仲介契約上の債務不履行ないし過失がないと主張するので検討するに、不動産仲介契約は準委任契約と解すべきところ、宅地建物取引業者(不動産仲介業者)が客の委託を受けた不動産売買の仲介をする場合には、民法六四四条に従い、仲介契約の趣旨に則り、善良な管理者の注意をもつて媒介すべき義務を負い、売買契約が支障なく履行されて当事者双方がその売買の目的物につき所有権の移転、登記の完了と代金の完済により契約の目的を達し得るように配慮すべき業務上の注意義務があると解すべきである。とくに、不動産仲介業者が他人の物の売買に関与するに当つては、通常の売買に比してより高度の注意を用いることを要し、事前に不動産登記簿を調査し所有者を確認するのはもとより売主の職業、信用度、所有者本人の売渡意思の有無、抵当権設定登記がある場合はその抹消の可否等を問合わせて確認するとともに、同人の委任状、印鑑証明書、権利証等を売主に提示させてその真偽を確認する等の措置をとり、売買物件の移転にいかんのないよう注意すべき業務上の義務があると考える。

ところが、被告久保田は前認定第二の一(七)のとおり、被告清水が本件土地は鈴木益郎の所有で同人から売渡の委任を受けているといわれ、同人の母の鈴木ミツキの印鑑証明書、同人名義の委任状、鈴木益郎の連帯保証書を見せられたのを、鵜呑みにしてこれを軽信し、本件土地の不動産登記簿、権利証を調査せず、所有者である鈴木ミツキ他二名に売渡意思の問合せ等による被告清水の売渡権限の有無の確認、抵当権設定登記抹消の可否の確認などの確認手続を全くしなかつたことが認められるから被告久保田が宅地建物取引業者として注意義務を尽し仲介契約上の債務不履行ないし過失がないとの被告久保田主張の抗弁事実が認められないことが明らかであつて、右抗弁は採用できない。

なお、被告久保田は本件土地の売買契約はすでに原告、被告清水間で話合いが成立した後に、売買契約書を作成するために形式的に仲介契約をしたものであり、実質上の仲介契約でないから責任がないと主張するところがあるが、前認定第二の一(六)(七)のとおり被告久保田は自ら売買契約書(甲二号証)の仲介業者取引主任欄に署名押印したうえ、仲介料の支払を受けているのであり、前示のとおり、これによつて仲介契約の成立が認められるから、これが実質上の仲介契約でないとはいえないし、たとえ既に売買の話合がほぼ成立した後に立会人的立場で仲介として署名押印したものであつても、業者の介入に信頼して取引するに至つた第三者たち原告に対しては信義誠実を旨とし、権利者の真偽につき格別に注意する等の業務上の一般的注意義務があるから前示仲介業者としての調査、確認義務に経庭がないというべきであつて、被告久保田の右主張は失当である(最判昭36.5.26民集一五巻五号一四四〇頁参照)。

二被告清水の主張について

被告清水は現在刑務所に服役中なので支払猶予を求める旨主張するが、これは主張自体失当でその理由がない。

第四 過失相殺の検討

前認定第二の一の各事実に照らすと、原告は、本件土地が同一地区内の鈴木ミツキらの所有であり、その子鈴木益郎の素行が悪いことを知りながら、近所の養豚業で農業委員の日高武恒から本件外の由につき名義はすぐ変るといわれたことを軽信し、所有者である鈴木ミツキらに売渡意思、抵当権抹消の可否等の問合せ、確認をせず、不動産登記簿も見ないまま被告清水、山本、池尻の言をそのまま鵜呑みにして、本件土地を被告清水から買受けたものであるから、本件売買の履行不能に関し債権者である原告に過失があるというべきであり、裁判所は職権をもつて証拠資料により認められる右過失につき売買契約の当事者でない被告久保田に対する関係において損害賠償の金額を定めるにつきこれを斟酌し損害額の四分の三を過失相殺する(最判昭四三・一二・二四民集二二巻一三号三四五四号参照)。

なお、被告清水は自ら他人の物の売主としてその売買の目的物である本件土地の権利を取得し、買主たる原告に移転する義務があること、本件損害賠償の対象である損害は主として被告清水が売買代金内金として利得したものであること、被告清水には本件履行につき、故意又はこれに準ずべき重過失があること、その他の前認定第二の一の各事実を考え併せると、被告清水との関係で原告の前示過失を咎めることは相当でないというべきであり、損害賠償制度ないし債権関係を貫く衡平の原則ないし信義則上被告清水に対する関係では過失相殺をなす理由は見出し得ない。〈以下、省略〉

(吉川義春)

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